【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
「じゃあ……また明日」
「……うん。ホームで」
部屋の前で別れるときでさえ、こんな少しの会話しかできないあたしたち。
手をつないで送ってもらったこの日は、たった5文字の“ありがとう”も言えずに陽路君の背中を見送るだけだった。
……………
それから数ヶ月。
あの日の距離が嘘のように、あたしたちの距離は縮まった。
「陽路!またあたしのシャンプー使ったでしょ?高いんだからやめてって言ったのに!もーっ!!」
「いいじゃんよ〜。俺もサキみたいにツヤツヤの髪になりたいんだよ〜」
「十分ツヤツヤじゃん!」
「じゃあ、ハゲ予防っつーことでどう?」
「ばかっ!」
「サキのケチ〜!」
あたしの部屋にはよく陽路が来るようになった。もちろん、あたしも陽路の家によく遊びに行くようになった。
そして、この部屋にはもう一つ。
おばあちゃんが作ってくるたあのひな人形、お内裏様とお雛様が仲良く並んですまし顔。
あたしと陽路は、ぷっくり顔と、ひょっとこ顔。