【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
でも……。
「「おばあちゃん、今日も元気に行ってきます!」」
あたしの部屋に来ると、陽路は仕事に出る前におばあちゃんのひな人形に手を合わせてくれる。
あたしがいつも一人で言っていたこの台詞も、いつの間にか陽路も言うようになった。
そういえば……。
陽路が介護の道に進んだキッカケは、あたしのおばあちゃんなんだって。
もともと陽路に祖父母はいなかったそうで、あたしのおばあちゃんを見て“いいなぁ〜”って思ったのがキッカケ。
両親共働きで、陽路は夜まで1人きりだった。おじいちゃんやおばあちゃんと遊ぶのが、小さな頃の夢。
それを叶えてくれたのが、引っ越した先で出会ったあたしのおばあちゃん。
だから陽路は、その恩返しがしたくて介護の道に進んだ。
――おばあちゃん、ここにも1人孫がいるね。2人で仲良く頑張るから、ずっと見守っててね。
ひな人形の前で、両手を合わせながらあたしは願った。
そこには、季節外れひなあられも置かれてる。そう、初恋の味の、ひなあられ。