【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
そのあと、奥からおばあちゃんがあたしを呼ぶ声がして、2人で部屋にあがった。
ちょうどお母さんは夕飯の買い出しに行っていて、お父さんはまだ仕事の時間。この家は3人だけの空間になった。
「どうしたの?サキちゃん。外が騒がしかったみたいだけど」
耳が遠くなったおばあちゃんは、だいたいの雰囲気はつかめても会話までは分からないんだ。
「うん。新しいお友だちができたの。ヒロ君っていうの!昨日引っ越してきたんだって」
だからあたしは、おばあちゃんの耳に口を近づけてよく聞こえるようにヒロ君を紹介した。
毎日男の子たちにからかわれていることは、ずっと内緒にしてたんだ。
おばあちゃんが悲しい顔をするのが嫌だったから……。
「そぉう。ボク、ヒロ君っていうのぉ。サキちゃんと仲良くしてあげてね?」
「はい!」
寝たきりのおばあちゃんを見ても驚かなかったヒロ君は、そう言われるとあたしの真似をして耳元でかわいく返事をしてくれた。
それがあたしにはすごく嬉しい出来事だったんだ。