【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
寝たきりのお年寄りっていうと、身内以外はあんまり接する機会もないのが普通なんじゃないかと思う。
まして、あたしと同い年くらいのヒロ君にとっては、ベッドに横たわるお年寄りを見るのは初めてだったのかもしれない。
あの男の子たちなら、きっと嫌な顔をするはず。部屋の雰囲気とか匂いとか、独特のものがあったから……。
だけど、ヒロ君はそんな顔をしないであたしのおばあちゃんを一瞬で受け入れてくれた。
それが何より嬉しくて、彼の笑顔を見ていると胸の奥がジンジンしたのをよく覚えてる。
「そうだ、サキちゃん。ひなあられを持ってらっしゃいな」
ヒロ君の返事を聞いて嬉しそうに目を細めたおばあちゃんは、あたしにそう提案した。
「うん!」
あたしに新しい友だちができたことが嬉しいんだ、おばあちゃん。一緒におやつを食べてほしいんだよね。
おばあちゃんに大きく頷いたあたしは、胸の前で抱いていたひな人形をベッドの端に置いて台所に走った。
友だちとおやつを食べるのは初めてで、あたしはウキウキだった。