【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
買ってあったひなあられの袋を破って、中身がこぼれないよう慎重にお皿にあけていく。
お母さんの見よう見まねで急須にお茶っ葉を入れて、ポットからお湯を注ぎ、3つ用意した湯のみ茶碗にトクトクと入れていく。
それをお盆に乗せて、落とさないようにゆっくり運んだ。
手慣れていないし特に器用なほうでもなかったから、思ったより時間はかかってしまったけど。
「お待たせ。おばあちゃん、ヒロ君。ひなあられとお茶、持ってきたよ」
「サキちゃん、偉いねぇ。もうお茶をいれられるようになったんだねぇ。やけどしなかった?」
「大丈夫だよ!」
「そう。大きくなったのねぇ。偉いわ。いいお嫁さんになるわね、きっと」
それでもおばあちゃんはあたしのお手伝いぶりをすごく喜んでくれて、しわくちゃの顔をもっとしわくちゃにして笑ってくれた。
だけどヒロ君はずっと浮かない顔をしていて、ときどき何かをぐっとこらえているような表情をしていた。
そんなヒロ君に気づいたおばあちゃんは、あたしと目を合わせたあと、気遣わしげに聞いた。