【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
「ヒロ君はジュースのほうがよかったのかい?」
「ううん。そうじゃないよ」
「なら、どうしたの?おばあちゃんでよければ言ってごらん?」
「……」
ヒロ君は無言でひな人形を指差した。さっきあたしが置いた、そのひな人形を。
「……この人形がどうかした?」
おばあちゃんはヒロ君の指の先をたどって、ひな人形とヒロ君の顔を交互に見ながら聞く。
なぜかあたしは黙っていることしかできなくて、お盆を持ったまま2人の様子をただ見ていた。
「そのお人形、おばあちゃんの手作りなの?」
「そうよ。余り物の布しかなくてかわいくは作ってあげられなかったのだけどねぇ……」
「じゃあ、サキちゃんがお人形のせいで泣いてたのは知ってる?」
「……」
切なそうにそう聞かれたおばあちゃんは、ひどく驚いて口をつぐんでしまった。
そして、あたしのほうを見て“そうなのかい?”と目を丸くした。それから……目の奥に確かに悲しい色がさした。
……おばあちゃんを守るための秘密が本人に知られてしまった瞬間だった。