いじめ
「あ、彩ちゃん!
 お帰り!」


手を振ってお帰りって言ったら
彩ちゃんは手を振ってくれた。


「た…大変なの!
 見ちゃったの!
 あたし、見ちゃったの!!」


でも、席に着くなり彩ちゃんは息を切らして言った。
見ちゃった?
何を見たのかはっきり言ってくれないと
分からない。


私は首を傾げ、彩ちゃんの目を見つめ返した。


「何を見たの?」


彩ちゃんは戸惑ったように
首を少し斜めにして口を開いた。


「…職場いじめ。」


職場いじめ───…
いじめって言葉が心の奥にずしんと
はまり、抜けなくなった。


それだけ印象が深い言葉だったから…。


「職場いじめ…?」


「うん…。」


しょんぼりしながら彩ちゃんは俯いた。


「誰が…いじめられてたの?」


先生がいじめられてたってことでしょ?
それって…大変なことだよ…ね…。
先生は本来、生徒のいじめを
注意する側の人間でしょう?


「青井…先生…。」


「青井先生…。」


青井先生は若くて格好良くて
生徒に好かれてて
授業も分かりやすい、元気な先生。


私たちの担任の先生だ。
その青井先生がいじめられてるの?
…誰に?
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