人の死にまつわる話
病院に到着して対面した父は、顔色もあまりよくなく、前の日よりも反応がにぶく、素人目にもかなりよくない状態がありありと伺えた。
時々息苦しそうに首を振ったり腕を上げたりしているのだが、酸素吸入のマスクをさせようにもそれも首を振っていやがるそぶりを見せた。

看護師さんが「体が動かなくても耳は聞こえているということなので、できるだけ話しかけてあげてください」と言っていたので、私たちはしきりに話しかけた。
時々言葉にならない声を発するので、口に氷を含ませたり、手を握ったりしてずっと話しかけ続けた。

今思うと亡くなる30分くらい前だっただろうか。
看護師さんが「だんだん心臓の動きも弱くなっているようです…」と言われて、それでも私たちはあきらめずに足をもんだり、手をさすったり、目やにをとったりしていた。
そのときその場には叔父と母、私の三人だった。
子どもたちは妹が売店にお昼を買いに連れて行ってもらっているところだった。
私たちはちょうど一年前、父がまだ元気だった時のことを話していた。
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