人の死にまつわる話
父は一年前、父の故郷に同窓生と会うために帰省していたところだった。
地方出身の父は高校を出てからずっと故郷から1000km以上も離れた地で暮らしており、故郷に思い入れが深く、何度も一人で帰省して楽しい時をすごしていた。
このため地元の同窓生から季節の贈り物や手紙などが頻繁に送られてきていたという。

父は服には無頓着だったが、すべて母が選んで着せていた服が田舎の人にはちょっとおしゃれに見えていたらしく、「おしゃれなMさんで通ってたらしいよね」と言って何度も話のネタにしたものだった。

そのときもその話をして、私たちも笑いあった。
ふと父の顔をのぞき込んだら口角があがっていた。
「お母さん、お父さん笑ってるよ!」
と私が言うと、
「あらほんとだ。聞こえているんだねえ」
と母も笑みをもらした。

そのあとすぐ看護師さんが来て「いよいよ心臓が止まりそうです…」と告げられた。
どうして?今笑ったばかりなのに。
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