人の死にまつわる話
通夜当日、自宅で眠る父をお棺に入れる「納棺の儀」を行った。
近所の親戚の方が見守る中、父の手を取り合掌させ、冥土に旅立つための旅支度をした。
昔であれば白装束を着せたりしたのだろうが、現在ではお棺に入れて、真綿で周りを覆うそうだ。

その際に、お棺に一緒に入れてあげたいものを入れてくださいといわれていたので、庭に咲くさざんかの花の枝とキンカンの実の枝を顔の周りに置き、ラベンダーのオイルを垂らしたハンカチを胸元に置いた。
ものに執着のなかった父には高価な装飾品や愛用品といった持ち物はほとんどなかったので、父の愛した自宅の庭に咲いたり実ったりしたものが一番いいだろうというわけだった。

さざんかの鮮やかな赤が真綿の白にとても映えていた。
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