REAL gray
到着したその町には、流石クリスマス、イルミネーションを見に来た観光人が結構いた。特に、恋人同士の。
傷心中の私にとって、気晴らしどころではなかった。


優司くんが、冷めた目で彼らを見ながら言う。
「冬なのにお熱いねぇ〜」

梅ちゃんは、ひとり恋人繋ぎして言う。
「手がこうだよ、こう!」

かっちゃんが、私を見て言う。
「遥飛かわいそうに……」



もう、ほっといてくれよ……。




かっちゃんと梅ちゃんは、私の前方で恋人繋ぎをバカにしていた。私は恋人たちをなるべく見ないように、下を向いて歩いた。

すると、優司くんが私の肩を叩いた。


「辻、見て見て」


言われた通り、私は優司くんの指差す方を見た。
そこには、今まで見たこともない熱苦しさのカップルが。



「……嫌がらせ?」

「ハハハッ!辻おもしれー」



ちっとも面白かないわ。


はぁっ、と深くため息をつき再び下を向いた。



「辻、見てごらん」

「ぜってー見ねぇ」

「いいから」

「のぁっつ!」



私の顔は優司くんの手によって、強引に前へ上げられた。



「……ッ」




私は思わず声を失った。




「綺麗だろ?」


私の目の前にはイルミネーションが広がった。

この素晴らしさを表現するには、私のボキャブラリーは余りにも浅すぎるほど。



「かっちゃんたちも見てみろよ!小木なんて感動しすぎて声も出な……」
< 5 / 32 >

この作品をシェア

pagetop