あかねいろ


夕陽はグズグズな顔で泣き笑い。

大斗は彼女の頬を両手で思い切り引っ張った。

『はひふんのよ…』

『俺はビショビショなんだ。今日はこれだけで許してやる。お前お詫びに宿題見せろよ?!』

和やかな空気が充満した。


南深の恋が実った事に胸がいっぱいの夕陽。

言葉は出なくて、ただボロボロ嬉し涙を流した。

南深は、ちょっと困ったように夕陽を見て瞳を潤ませる。


その後は早上がりの大斗も一緒にテーブルを囲んでみんなで騒いだ。マスターが特別のご馳走をサービスしてくれたのだ。


~♪~♪~♪~


電子音が大斗を呼ぶ。

『はい?どした?』

大斗はご機嫌で電話に出る。


あ、この大斗わかる。咲さんだ。


電話越しに穏やかな顔で頷く彼を見て、すぐに電話相手が咲だと夕陽は気付いた。

『悪い、咲んとこに行ってくるね』

電話を切ると笑顔を残して早々Barを出て行った。

『ね!大斗と咲さんは特別なんだよ。あたしは2人がうらやましい』

夕陽は大斗の出ていった扉を見つめて静かに言った。それはただ純粋に2人を"いいなぁ"と想う彼女の言葉だった。


――――――――――――


南深と恭次の帰り道。

『ねぇ?恭次?咲さんと神崎君って、どんな関係?』

『どんななんだろうね?なんか不思議な関係じゃない?』

「答えにならないよ」南深は頬を膨らませて呟いた。

『ひぃちゃんと神崎君、お似合いなのになぁー』

恭次は静かに笑って

『何でも、物語みたいにうまくはいかないだろ。俺らだって16年かかってまだこれっぽっちだ。』

と答える。

『うん…』

『そうだよ。大斗の場合は特に問題。あいつは昔からどこか恋愛に実体がない。アイツが色恋ってのは、そう簡単にはいかないよ。』


月夜の帰り道。

南深の手をそっと握った恭次と真っ赤な彼女…


南深と恭次の物語りは、ゆっくりゆっくりページがめくられていく。


夕陽や大斗、咲の…みんなのこれからはどうなっていくのだろう。

夜空が見守る中、こうしてそれぞれの時間はゆっくりと紡がれていくのだった。



< 105 / 469 >

この作品をシェア

pagetop