あかねいろ
『あんたとの時間は、宝物だよ…』
『当たり前』
腕組みで得意気に立つ咲の目頭が潤んでくる…
『――…ッ!!ひろとっ!!』
咲は大斗に向かって駆け出した。
大斗も一歩…二歩と咲に近づき両手を広げる。
『咲!!』
2人に距離がなくなった時―
咲さんは大斗の胸に飛び込み
大斗はそれを強く抱き締めていた。
あたしの視界には斜め後ろから大斗の背中と少しだけ顔が見える。
そして抱き締められて、とても幸せそうに瞳を瞑っている咲さんが映った。
その瞬間、あたしの世界には…
それしか見えなくなった…
咲さんの、その顔は太陽みたいだった…
大斗の首に咲さんの腕が回る。
大斗の手は咲さんの腰に回る。
『愛してるよ大斗。世界で一番!!』
一粒落ちる咲さんの涙。
『知ってる』
2人は見つめ合う。
『世界で一番幸せになってね!!』
『咲も』
2人は笑う。
そして再び強く抱き合う。
きっと、2人は今ひとつになったんだ…
ひとつに混ざり合った…
そんな気がした。
とても儚い夢のような…
そんな絵だった。
咲さんは大斗の頬に両手を添えて…
そのまま…
ゆっくりと大斗の顔に近づいていく…
ちゅっ
咲さんは大斗にキスをした。
唇に軽く触れるだけのキスをした…
さっきまで、自分にキスをした人が他の人にキスをする。
それを瞳の前にしても…
その絵があまりにも美しすぎたから…
何かを思うどころではなかった。
むしろ…見惚れてしまった…
『あたしと大斗のファーストキス♪』
そして笑った咲さんの顔は
今まで見た事のある、どんな笑顔より、誰の笑顔より
美しかった。
屈託のない笑顔
その咲さんの言葉の意味を考える隙もないほど
あたしは、咲さんに釘付けで
笑顔の世界に飲まれてしまっていた。