あかねいろ

願い


気まずい空気を更に煽るかのような、妙に静まり返った留守電のアナウンスの声。


あたしは、動けずに固まっていた。

早く切らなきゃ…

家の電話を鳴らす相手は限られている…

大斗がいる、切らなきゃ…


〈夕陽ちゃん?起きてる?居ないの?〉


留守電の録音に繋がりそのまま喋りだす。


やっぱり…


声色で電話相手が大斗にもわかったらしい…


『あっ』


と小さく呟いていた。


切らなきゃ…と思うのに、放心して動けないっ…


すると…


大斗は何を思ったか立ち上がり電話を取ってしまった。


そして、あたしを見据えて受話器を差し出す。

受話器の口元を押さえて


『早く喋れよ』


と、とても冷静に言った。


〈もしもし?夕陽ちゃん?もしもし?〉


受話器からは、名前を呼ぶ声がひっきりなしに聞こえる。


『早くしろ!!』


大斗の怒鳴り声にやっと身体が動いて受話器を手にした。


『お母さん?』


〈夕陽ちゃん。よかった。やっと出たのね…〉


と呆れ声。


大斗はあたしのすぐ隣、受話器のすぐ真横に座った。

会話は大斗にも聞こえている事だろう。

大斗は…あたしの頭をポンポンして、小さな声で


『落ち着け』


と言った。

その優しい笑顔に…

不思議と物凄くホッとしてしまった。


『ごめんなさい。今起きたの…』


〈今春休みよね、最近たまにメールくれるけれど、やっぱり電話は繋がらないし…家にはちゃんと帰っているの?〉


『はい。帰っています。なんだかんだ…でれなくて…ごめんなさい…』


あんまり親とちゃんと会話したことなくって…

どんなふうに話していいか分からないよ…


〈一度、こっちにいらっしゃい。5月の連休中にでも…〉


母親の落ち着き過ぎた喋り方が夕陽の頭の中に渦巻く。


何て答えればいい…?

あたしは自然と大斗を見ていた。


< 314 / 469 >

この作品をシェア

pagetop