あかねいろ
依然状況把握できない夕陽は、のり付けされて未だ開かれた事の無い手紙を掴んで裏表と返す。
『なんで?冷蔵庫?』
『俺は部屋しょっちゅう破壊する…けど前から冷蔵庫だけは壊さないんだ…だからそこに入れとけば無くなる事はない』
「壊さない」とか「無くさない」とか言うって事は、大斗にとって「大事」な手紙って事?
…
『あ…』
もしかして…
前に大斗から聞いた話が蘇る。
『これ…!!大斗の…』
彼は小さく頷いた。
少し遣りきれない悲しい顔で…。
『お母さん?』
夕陽は言った。
―手紙は開けられなかった―
大斗の両親が亡くなった時に母親が彼に残した手紙だ。
『未だに…やっぱり開けられない…捨てる事もできない。きっと…親の気持ち色々書いてあるんだろうって当時周りが言ってたけど、誰も「開けろ」とは言わなかった…言えねぇよな…俺、精神的にかなり殺られてたし…。』
大斗はゆっくり話し出した。
『俺は、あんまり喋んない子どもだったし、自分の想い言えなくて、親と表面上の会話しかしなかった。ただ…毎日耐えるだけ。』
夕陽から手紙を取って、太陽にペラペラと透かす。
ピタリと空中で止めて
『もう大分経つのに…一向に開けられない。』
と夕陽を見据えた。
『怖い…』
酷く辛そうな顔だった。
『大斗…?』
大斗の弱音はあまり聞かない。
更にこんなシラフの状態では、絶対に言わないのに…。
『俺…あの頃、もっと俺が喋ったり、助けを求めたりしたら…何か違ったかもとか思うんだ。親と話せたら違ったかもとか思うんだ。そんな事思っても今さら無理だし、やっぱりあの頃の俺には絶対できなかった』
大斗は…あたしの為に話してくれている…?
『お前が、自分の親とどんな事があって、どんな関係か知らない。でも、親が居て、電話くれる。もう俺にはできないことだから。』
大斗は少しだけ笑っていた。
『俺の分も…会ってきてくんない?親と話してさ、俺が出来なかった「自分の気持ち伝える」って事、してきて欲しいんだ』