あかねいろ

夕陽はゆっくりと身体を浮かせた。


『ゆう…ひ…?』


唖然と…固まることしか最早出来ない。

彼女はそんな俺の後に回る。

彼女の細い腕が首の横から肩越しに延びてきて


俺よりずっと小さな彼女の…

大きな温もりを…


背中いっぱいに感じた。


『大斗?大丈夫だよ』


後ろから抱き締められた。


もう…言葉がでないよ…夕陽…


本当に…本当に


お前は温かい…


『大斗…も…何か言ったら?』


夕陽の顔は見えないけれど…

その声に酷くほっとした。


彼女の両手を前から少し引っ張る。


立て膝をする彼女に包まれる…俺。



瞳を閉じた。



顔は誰にも見えていないから…



強いて言うなら…あの人達には…

見えてるのかな…







『生きてて良かった…』







言えた事はそれだけだった。


『大斗のお父さん。あなたは何を思って大斗を傷つけたのか…あたしには理解できません…どんな理由でも理解なんてしない、許せない』


大斗と夕陽の2人の腕に同時に力が入る。


『大斗のお母さん。あなたはどんな理由だったとしても…大斗を独り残していったこと、あたしは許せないです。』


涙声で…でも力強く話す夕陽の言葉が俺に降り落ちてくる…




『だけど…』


上からの声が振動する。

肩越しにある夕陽の声が振動する…

そして…


パタ パタ…


と落ちてくるもの…


雨…


こんな晴れた日に…


違う…



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