あかねいろ
彼女はまだ何も言えず、彼の顔を見ながら間抜けな顔で立ち尽くしている。
目の前の男の子は、改めて見ると「今時」と代名できる容姿と整った顔をしていた。
そして子どもっぽくも大人っぽくもある不思議な雰囲気を持っていた。
世間で言ったら「カッコいい」なんだろうけど…、
なんか…ウソくさい…
そう思い、じっと視線を落とす。
『ほら。早く乗ってよ』
ご、強引…
同じ学校だけど名前も学年も知らない男の子…
…
はぁ…
でも出かけてもいいかなぁ…、家に帰るよりマシ…
深くは考えない。
あたしはお腹がすいただけ。
誰かと出かける理由なんて、それだけよ。
それで充分じゃない?
考え込み、なかなか自転車に乗らない彼女に
『俺、神崎大斗。片桐さんと同じ1年2組だよ、よろしく』
思いを読んだかのように彼はサラッと言った。
彼女は顔をあげる。
『生徒証でね♪』
"かんざきひろと"
そうして、彼は名前も知らない人からクラスメートになった。
『早く乗りなって』
まぁいっか。
彼女は無言で自転車に乗る。
相手が何を思うかなんて、まるでお構い無しの彼が笑えたから。
暖かい風が吹いた。
2人のサラサラな髪が靡く。
『変な女…』
彼が小さく呟いてた事には彼女は全く気付かなかった。