あかねいろ
『ズボン履いて来て。靴履いて外に来て。』
そして部屋から出ていってしまった。
何も言う隙がなかった夕陽は着替えて靴を履き外に出る。
そこには、いつの間に免許を取り終えていたのか、バイクに股がった大斗の姿。
『これ、被って』
夕陽はヘルメットを渡された。それを抱いたままキョトンと大斗を見る。
『被るんだよ?知ってる?』
なんて軽く笑う。夕陽は「知ってるわよ」と顰めっ面。
『貸して』
大斗はメットをとると夕陽に被せた。
――――――――
初めて乗ったバイクは夜の風を切って走っていく。
昼間の雨は飛んでいって、久しぶりに星が輝いていた。
夜風に吹かれる。
バイクが抜ける。
やっと暖かくなってきた風は頬を掠めて、現実世界から何処か遠くへ行ける気がしてしまう…
『降りていいよ』
しばらく走って大斗はバイクを停めると、夕陽のメットを外してあげる。
何処までビールを買いに来たんだ?
『こっち』
大斗は古木が倒れた中に更に滋る木々が森のように広がっている方を指差した。
そちらへ夕陽を誘導する。
『足、気ぃつけて』
確かに、枝が大量に落ちていて、間違ってもヒールなんかでは通れないだろう。
この先にビールが売っているなんて考えられないんだけど…?
ザザーン … サザーン…
ザザーンー…
そこを抜ける…
潮の、匂い…?
柔らかい風が吹く…
『ここ…』
森を抜けると、そこには海が広がっていた…
満天の星。
誰もいない浜辺は世界で自分達だけになったと錯覚させる。
木々で囲まれた小さな浜辺と目の前の海…
月の光に照らされて波がさざめく様子が見える…
狭いのに…広い…
なんて開放的な空間…
夕陽は、ぼーっと何も言えずに見とれていた。
真横で星の光が1つ増えた。違う、それは大斗の煙草の火だった。
『ひっさしぶりに来たなぁ』
そう言ってパタンと砂浜に寝転ぶ大斗。
つられて夕陽も隣に寝転んだ。