あかねいろ

―――――――


『あーまた居るー?!丑三つ時の少年だー!!』

例の女とは度々深夜のコンビニで会った。


その度に様々な呼び方で呼ばれた。

お互い名前も知らない。

女は会う度に違う男と一緒だった。

時には若く、時には父親くらいの男。

彼女はいつもベロベロに酔っ払っていた。


『コラッ!不良少年!!今日は何買うのぉ?』


昨日は幽霊と言われ、今日は不良と呼ばれた。


酔っ払いの彼女は、会う度に何かをゴッソリ買ってくれた。


いつも笑っている。


そんな彼女に何も言えなかった。


今と違ってほとんど言葉を発しなかったから。


まるで言葉と一緒に「自分自身」も忘れているかのようだった…


そんな日々が続いていた。


『ねぇ?あなた結局誰君?』


ある時、彼女は初めて名前を聞いてきた。

初めて会ってから3ヶ月ほど経っていた。



『大斗…』



その日やっと初めて彼女に言葉をだした。



『大斗くん?!あたし、咲ちゃん♪麻生咲♪よろちくー♪』



大斗12歳、咲16歳初秋。

2人の出会い。


よく知らない"咲"に会うことは暗闇に灯る小さな光。

辛い毎日の中の気休めな楽しみになっていった。


――――――――


その日は爽やかな朝だった。

毎日の真っ暗な心を痛みつけるような、なんて明るい月曜日。


『ごめんね…もう少し我慢してね…』


母親は小さな声で言った。

それには、何も答えない。


我慢?

もうこんな毎日はうんざりだ。


―――――


ガッターン!!


その晩は椅子が跳んできて直撃して、後ろに倒れる。

父親を睨み付ける。

もう限界だった。


『その顔は何なんだ?』

そう言って近づいて来る父親…




< 72 / 469 >

この作品をシェア

pagetop