LUCE
『ゆう…』

誰かが俺を呼ぶ。

暖かい、懐かしい声。

あの日の記憶が、俺の中に広がっていった。

『ねぇ、ゆうっ。お土産何がいいっ?』

『ん~…なんでもいいや』

あの日、俺は幼馴染の美景の見送りに、空港に来ていた。
美景は今日から10日間、カナダに家族旅行に出かける。
その見送りに来た、という訳だ。

『もぉっ!ゆうはいつもそうなんだから。
もう知らないっ』

ぷぅっと頬を膨らませ、怒る美景。

『嘘だよ。
でも、俺カナダなんて行ったことないから、何がいいのかわかんねぇし。
なんかあったら買ってきてよ』

『うんっ。お土産待っててね』

すぐに機嫌を直してにこっと笑いながら言った。

素直に可愛いと思った。
俺は、美景が好きだった。
だから、からかったりしてすぐに喧嘩になる。
でも、そのあとに見せる笑顔が、何よりも好きで、またからかって喧嘩した。
俺は、そんな関係が、いつまでも続くと思っていたんだ。

他愛のない話をしていると、搭乗時間になった。

『あ、もう行かなきゃ。
それじゃゆう、行ってくるね。あたしのいない間、寂しくて泣かないでよっ』

『泣かねぇよ。ばーかっ。
…気をつけてな』

手を振りながら、美景は搭乗口へ向かった。



あんなことになるなんて思っていなかった俺は、
美景に手を振り返しながら、微笑んでいた。
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