白百合の花
〜序章〜
「8月15日」
澄み渡る青空に燦々と照りつける太陽の下、蝉の声に割り込むように一際大きくサイレンの音が鳴り響いた。そっと目を閉じながら、私は去年と同じ祈りを今年も捧げている。
こうやってこの日に黙祷を捧げられるのも、今年が最後だ。

…そんな気がする。

この日が来る度に、胸の中にざわめきだす感慨と同じ想いを抱えた人は、私の他にあと何人いるだろうか?
東京の街が一夜にして焼け野原と化したあの日から、気がつけば60年もの月日が経っている。

戦禍の傷跡は、もはやそれを知る人の心にしか残ってはいない…。

一体、誰の心に届くだろう?

言葉ではどうしても伝わらない。

自分が生き残った事を後悔しながら生きてきた日々…

自分だけが幸せになる負い目…

心から笑うとき、打ち消せない悲しみが同時に胸に広がる。


これは、彼と私の手記だ。
薄れゆく過去に、せめてもの真実をこれに託す。





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