魔王さま100分の1
付け足すとすれば、

切られると分かって、
尻を向ける牛はあまりいない……。

「はい、これ使って」

その子は、シルキスに鋏を渡してくる。

愛情をもって使い込まれた小さな子供鋏だった。

「うっ」

さっきまでの勝つイメージが急速にしぼむ。

変りに、牛達にぽこんぽこんお手玉にされている自分。

血の声も消えちゃいました。

「生け捕りは、難しいかな?」

シルキスは頑張って、頼れるお兄ちゃんの顔を保つ。

「ええー」

「たぶんその鋏も壊れちゃうし、大事でしょう?」

「なら、これは秘蔵の肉切り包丁だ」

そのシルキスの肩がバシッとたたかれる。

いい笑顔のおじさんが、そこそこ良さげな刃物を差し出していた。

あくまで、そこそこだ。
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