銀色メモリー
 卒業式の1週間前。
 掃除が終わり、私は雑巾を洗う為に流し場にいた。
 そこはホールのように広くなっており、廊下の真ん中にあるため、ちょうど女の子のおしゃべりの場所にもなっている。
 うちの学校は小さい学校だったので、掃除する場所が少ない為に、掃除の割り当てがない班が出来てしまう。
 割り当てがない班がすぐに帰れるように、ホームルームが終わってから掃除となる。


 流し場で雑巾を洗っていた私は、あまり仲良くしていないはずの奈保に話し掛けられたのだ。
 私は小学校の頃からどうしても奈保を好きになれず、お互い嫌いあっていると思っていたので、奈保に話し掛けられて私は困惑していた。
 奈保はそんな私に構わず、話し出す。

 まるでスローモーションのように奈保の口が動く。

「下沢君の好きな子って愛田さんだと思ってた。違うんだってね。私、下沢君に好きだって言われて困っちゃった。だって他に好きな子がいるんだもん。迷惑なのよね」

 次の瞬間、奈保を叩いていた。

 胸がむかつき、吐き気がする。
 嫉妬、妬み、悲しみなどがいっぺんに私の心の中で渦巻く。

 周りの視線なんて気にならなかった。

「よく、そんな酷いことが言えるわね! もし、自分が迷惑って言われる立場だったらどうなの!」

 それだけしか言うことが出来なかった。

 自分を持て余してしまった私は、何もかもが嫌になって、その場から身を翻し、自分のクラスに戻る。
 あとはひたすら自分の気持を落ち着けることに精一杯で、何も覚えてはいない。

 私の涼への想いは汚れてしまった。
 人の気持を平気で踏みにじる奈保への怒りと、また涼がそんな奈保を好きだと知って失望も感じていた。

 私はその日限り、涼とも関わりを絶ったのだ。

 卒業まであと1週間だったし、涼とは高校も違う。
 卒業してしまえば会うこともない。

 だからこそ、それは私の中で、ほんの少し苦い思い出となるはずだった。
 けれど、涼は今でも私の心の中に住んでいる。

 昔と変わらず、私は涼を好きなまま・・・・・・。

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