銀色メモリー
「いいよ」
「え?」
「付き合ってもいいよ。涼の事、まだ忘れられないけど、それでもいいなら・・・」

 そう言うと、彼は傷ついた表情を浮かべる。
 こんな事言われて傷つかない人なんていない。
 でも、嘘や誤魔化しは出来ないから・・・・・・。

「同情してる? ・・・ううん、それでもいい。同情でも僕は美弥が欲しいから」

 彼は私と同じ。
 同病者。

 悲しんで、苦しんで、同情して、それでも2人で一緒にいたら、お互い支えあう事が出来るかもしれない。
 片足で歩くのは大変だけど、支えがあれば楽になるように、1人でいるより、2人でいた方がその分早く歩けるかもしれないから・・・・。

「私はまだ涼を忘れられない。だから付き合えばあなたの方が苦しい想いをするかもしれないよ?」
「構わない。美弥がそばにいてくれるなら、他には何もいらない。いつか美弥が兄貴を忘れられるように僕が頑張るだけだよ」

 心を決めているような彼の笑顔が私の心にしみる。
 そんな笑顔に私も笑いかえす。

 この先どうなるのかはわからないけれど、彼は私と違って前向きな人みたいだから、一緒にいたら好きになれるかもしれない。

「抱きしめてもいい? それ以上は何もしないから、ちょっとだけ・・・」

 そう言われて恥ずかしかったけれど、私は了承した。
 彼はそっと、ゆっくりとした動作で私を優しく抱きしめる。

 まるでちょっと力を入れると壊れてしまうかのように、そっと、触れるか触れないかのように優しく・・・・・・。



「さて、帰ろう? 家の前まで送るよ」

 私を放してベンチから立ち上がる彼は、ごく普通の男の子に見える。
 でも、何処か他の同年齢の男の子とは違う感じがする。

 私もベンチから立ち上がると、彼に家の前まで送ってもらったのだった。

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