だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
「で、今の物語の教訓はね」

……って、わざわざ教訓を後付しないといけないなんて、もう、童話として失格な気がしますけど、パパ!

「大事な人を差しおいてまで、自分が助かりたいなんて誰も思わないってことだよ」

唐突に、パパの声のトーンが変わる。
さっきまで、あからさまにジョークモードだったのに。
転じて、今は低い声。

そうして、シリアスモード。

「だから、もしも都ちゃんが狙われたら、パパは何を差し置いてでも都ちゃんを助けるの。
それに、パパはそうする自信も力もあるよ。
大雅くんも、清水だってそうじゃないかな。
姐さんだって、もちろんそうだ。
だから、都ちゃんが無事に帰ってくるのを見届けた後、ほっとして抱きしめたり、優しい言葉をかけてあげることができる」

パパはそういうと、一度唇を閉じた。
そうして、多分、ふわりと微笑んだんだと思う。
目を閉じていても、空気が緩んだのが分かるもの。

「でもね?
多分、谷田陸の母親にはそういう余裕がないんじゃないかな。
陸のことを何を差し置いてでも助けたいって思うと同時に、何も出来ない無力な自分に気づく。
そうするとね、人からは余裕が消えてしまうんだよ。
だから、陸を目の前にしてほっとしたと同時につい、自分の心の余裕のなさから手が出てしまったんだ。
人を殴ることを肯定はしないけど、虐待やSMとはまた別の行為で、大好きな人をつい傷つけてしまうってことは、誰にでもある。
そういうとき、多くは自分から余裕ってやつが消えてるんだよ。
大人だからって、誰しもが余裕綽々で生きているわけじゃないんだ。

……だからね、都ちゃん。
頼むから、パパたちが助けてあげられるところで困ってね。
それ以上大きなステージに、一人で出て行かないで。銀組だって無敵ってわけじゃないんだから」

唐突にそうやって優しい声で懇願するの、ずるいんですけど。
もしや、催眠療法か何かかしら?

わたしは頷いて、それからゆっくりと夢の世界へと誘われていった。
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