だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
ふと足を止めたのは、都さんの部屋から明かりが漏れていたからだ。
紫馬さんの声が聞こえる。

どうやら、熊とライオンが出てくる物語のようだが……。
なんて、脈絡も起承転結もない話なんだろうか。
即席だとしても酷すぎる話に、思わず足が止まる。

ドアを閉め忘れた――なんてことは紫馬さんに限って絶対にないだろうから、これは俺に対するメッセージなのだろう。
あるいは、罠か誘惑か。

壁に座って、夜伽話にしては説教じみて冗長的な話に耳を傾ける。
やがて、話は終わり軽い唇付けの音が響き足音を感じさせない足取りで紫馬さんが出てきた。

「おお、これはこれは大雅殿」

後ろ手にそっと扉を閉めた後、大仰に目を丸くして、その後まるでショーの始まりを告げる司会者のように芝居じみた仕草で恭しく礼をして見せるのはなんの冗談だろうか。

「呼び止めましたよね?」

「いいえ、まさか。
女性との甘い一時を過ごすのに、男は二人も要りませんからねぇ」

はぁ。
この人と喋るときは、余分な冗談を覚悟しておかなければならないんだった。

ふと、空気の色が変わる。

「明日、都さんの担任に逢ってきます。
構いませんよね?」

俺にわざわざ許可を取るということは、やはりそれなりの人物なのだろうか。
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