だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
「ええ。突然戦争なんて始められなければ、ですが。
お一人で、ですか?」

「そのほうが警戒されなくて良いでしょう?
大丈夫。
仕掛けられてこなければ、こちらから仕掛けたりしませんから」

ってことは、仕掛けられたらやるってことですよね?

紫馬さんの瞳に剣呑の色が纏う。
彼の雰囲気から冗談を差し引くと、危険な男という実態だけが残るのだ。

今、彼の瞳はまさにそんな危ない色を帯びていた。
普段はまず見せることのない、彼の本性に息を呑みそうになる。


向組 青龍会――

それに付き纏う苦い記憶が、紫馬さんの中にあるのは噂で聞いたことがある。
それは、うちの組にまだ紫龍会(しりゅうかい)があった頃の話。

まだ小学生低学年だった紫馬さんが、自宅兼事務所に帰ってきたとき、会のメンバーのほとんどがそこで虐殺されていた――。

学校帰りという日常生活の中、唐突に突きつけられた非日常の血の香り。
その狂気とも言えるシーンを目の当たりにしても、尚。
彼は冷静な足取りで銀組本部まで来たという。

『敵(かたき)をとらせてください、お願いします』

当時の銀組総長、銀 風雅(しろがね ふうが)。
つまり、俺の親父に向かって怯むことなく頭を下げた利発そうな少年の瞳は、冷静さを欠いてなかったという。

その後、もちろん少年、紫馬 宗太は言葉にたがわぬ活躍を見せ、組の中で一躍有名になった。

紫馬さんの数ある伝説の中でも、なかなかに背筋の凍る話ではある。

幸いにも紫龍会会長であり、紫馬さんの育ての父でもある紫馬 一郎(しば いちろう)氏は部下に守られ無事だった。
結局、一郎氏自らが青龍会会長の息の根を止めてこの抗争は終わった。

そうして、向組は関東一円から姿を消すこととなったのだ。



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