だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
熊のぬいぐるみは、わたしの涙をどんどんと吸い取っていく。
なかなか、延々と泣き続けるなんて出来ないものね、と。

思い始めた頃、本当に涙は止まってしまった。
それでも、顔をあげるのはなんだかとても気恥ずかしくて、熊に顔を埋めて黙っていた。

「……困りましたね。
帰ってから何も召し上がられてないと聞いてます。
その上、泣いていたら干からびちゃいますよ?」

冗談のつもりなのか。
いつもより、少しだけ柔らかい口調で清水が言う。

「干からびないもんっ」

顔をあげたわたし。
でも、わたしの顔変じゃないかしら?

はい、どうぞ。なんて、ティッシュを箱ごと取ってくれる清水の方を出来るだけ見ないようにして、涙を拭いて鼻をかむ。

ねぇ。
やっぱり好きな人の前で泣くのはよくないんじゃないかしら?
百年の恋も一気に冷める、気がしない?

「なんなら、食べさせて差し上げましょうか?」

さして冗談とも思えない口調で、清水が言うから、またもやどきりと心拍数が上がる。

「だ、大丈夫よ。
自分で出来るものっ」

強引に器を奪い取って、冷めた葛湯をスプーンで喉に流し込んだ。
でも、飲み込むたびに喉が痛い。

ほんの少しの量なのに食べ終えるまでにやたらと時間がかかってしまった。

それなのに、最後まで文句も言わずに付き合ってくれた挙句、
「他に何か要りませんか?」
なんて言うのよ。清水ってば。

おかしいわ。
彼の声なんて飽きるほど聞いているはずなのに、どうしてこうもドキドキしちゃうのかしら。

「……ううん、大丈夫。ありがとう、清水さん……」

そう言うだけで、もう、胸がいっぱいいっぱいになっちゃうんだけど。
今回の風邪って、あれ?
頭や喉じゃなくって、胸にくるのかしら?
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