だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
「ごめんなさい。
勝手に歩き回らずにここで大人しく待っているって約束するわ」

手さえ伸ばせなくて、代わりにぎゅっと熊を抱きしめながら謝った。
どうして。
こんなに簡単に泣きたくなっちゃうのかも分からなくて、睫を伏せる。

しゅんと大人しくなったわたしの頭を、清水の手が優しく撫でる。

「その前に、ガーゼを取り替えてあげますよ」

手を貸して、と。
促されるままに、両手を差し出す。

手の甲には、早くもかさぶたができていてがさがさと汚らしかった。

「痛みますか?」

「ううん、大丈夫」

「もう、無理しないでくださいね」

優しく諭すように囁かれる言葉に、わたしは操られている人形のように素直にこくりと頷いた。


運んでくれた朝食をとって、大人しく薬も飲む。
そうやって、なるべく大人しくしているのに清水はまるで信用してくれてないみたいで、わたしの傍で静かに本を読んでいる。

眼鏡の奥の伏せられた長い睫、筋の通った鼻梁。
薄い唇に、骨ばった指先。

今まで気にもならなかった全てのことに、わたしの心臓は勝手にドキドキしてしまう。
そうやって、大人しく寝たり起きたりを繰り返している間に、二日間がゆったりと流れていった。
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