だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
17.風邪なんだからしょうがない
怖いくらい穏やかで静かな二日間の終わりを告げるかのように、扉がノックされた。

「はい」

熱が下がったので、ベッドに寝そべったまま、試験用の問題集とにらめっこしていたわたしの代わりに清水が口を開く。

「入っても?」

扉の向こうから聞こえたのはお兄ちゃんの声。

「風邪が移っても良ければ、どうぞ」

清水の視線を受けて、わたしが答える。
高価な宝石を想わせる黒い瞳は、今日もわたしを飽きることなくときめかせる。

清水は読みかけの本を閉じて立ち上がり、手慣れた仕草で扉を開けた。
もちろん、利き腕ではない左手を使って。


デニムとトレーナーという、カジュアルな姿のお兄ちゃんは躊躇うことなく部屋に入り、わたしの顔を覗き込む。

「お兄ちゃん、あ――」

私の言葉を最後まで聞く時間も惜しむように、柔らかいキスが落とされる。
アメリカ映画で、挨拶代わりによく交わされる程度の、いつもの軽いキス。


――ダメっ。

考えるより前にキスを振り払う。

「都さん――?」

お兄ちゃんの瞳に浮かぶ戸惑いの色を見て、思いがけず胸が痛む。

でも。
嫌なの。

「風邪が移るよ?」

咄嗟に口を突いたのは、ありきたりな言い訳。

「構いませんよ」

甘い笑顔がわたしを誘う。

でも、わたしは構うんだもんっ。


入り口に視線を向けたけれど、もう、そこに清水の姿は見えなかった。
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