だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
これが罠であることは、初めから百も承知だ。
それでも、部外者である小川の身を危険に晒すのは俺の主義に反する。

「白井、こうやって出歩くのは久しぶりなんじゃないの?」

やたらときょろきょろする白井が可笑しくて声を掛ける。
白井は、ピンクの髪をくしゃりとかきあげて、申し訳なさげなため息をつく。

「すみません。
このところ、こう。大した事件がなかったもので」

「そう?
平和なのはいいことだ」

心にも無い言葉を吐いて見せるのは、ただの暇つぶし。

ちらりと路地を覗くと、倒れこんでいる小川の姿が見えた。
上下左右に怪しい人影は無い。

どこか遠くからこちらを狙うような視線も感じなかった。

諦めて足を進める。

ラグビー選手かと見間違われることの多い小川が、いかにも「リンチにあいました」という悲惨な姿で、路上にぼろ人形のように転がっていた。

声を掛けるが意識も無い。

赤城と赤坂に小川を運ばせる。

ずるりとむけた皮膚。
押し付けられた煙草の痕。
指が10本揃って目も耳もちゃんと残っていることが奇跡に思えるほどだ。

くだらない。
路上に唾を吐きかけたくなる。

一般人相手にこんな牽制しなきゃいけないほど、てめぇら弱いのかよ?
と。

夜空に向かって叫びたい気持ちがこみ上げる。
拳を握って、ただ、耐えた。

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