だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
拗ねるわたしに動じる様子もなく食事をとり終えたお兄ちゃんは、ポケットから取り出したナイフで、テーブルに置いてあったリンゴを剥いてくれる。

お兄ちゃんが料理する姿なんて、見たことない気がするんだけど、クルクルとリンゴを回しながら見事に皮を剥いていく様は見ていて楽しかった。

で、でも。
そのナイフ……何かに使ったものだったりしないわよね?

リンゴを八等分して、お皿に置いたお兄ちゃんはわたしの視線に気付いたのか、形の良い唇でクっと笑う。

「新品のナイフですので、ご心配なく」

剥きたてのリンゴに噛りつくと、シャリっと良い音が響いた。みずみずしくて、甘い。


「昨夜、何があったの?」

リンゴを二切れ食べたわたしは、これ以上黙っていられなくなってそう聞いた。

とたんに、お兄ちゃんの表情がすうと変わって、心の奥まで読み取れないようガードをかけたと分かる。


「私の友人が怪我をしたのです。命に別状はないので、ご心配なく」

命に別状はない――この言葉に安心しちゃダメ。
腕や足の一本あるいは目や耳が片方くらい無くたって、「命に別状はない」って言われるんだもの。
人の命は思ったよりずっとしぶといものなのだ。
ここに居るとよく分かる。

不安そうな顔をするわたしを見てお兄ちゃんがそっと耳に唇を寄せる。

「そんなに心配なら、もう一度ここでキスしてあげましょうか?」

か、関係なくない?ソレ!!
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