だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
「あのね、唇のキスは恋人同士でするものなんですっ
だから、お兄ちゃんとはしないのっ」

お兄ちゃんは片目を薄くしてわたしを見た。

「へぇ。この前までそんなこと仰ってませんでしたよね?
都さん、お好きな人でも出来たんですか?」

……ドキン。

危うく、さっき食べたリンゴの欠片と心臓が口から飛び出そうになって慌てて口を手で覆った。

「な……何よ、それっ」

動揺していますと、口調がはっきり告げているのは薄々勘付いていたけれど認めるわけにはいかないわ。
お兄ちゃんは、口許に意地悪そうな笑みを浮かべた。

「差し詰め、この間の傘にお名前を書かれていた人のどちらか、なんですかね?」

……う~~~~。
  わたしがそれで傷ついて学校から抜け出したことも知ってるくせに。
  お兄ちゃんって優しいと思って甘えていると急に意地悪になるから、やっぱり嫌い。

ぷいとわたしは顔を背ける。
ダイニングの端でケータイ電話片手に何か話している清水が一瞬ちらりと目に入る。

まずい。
このままお兄ちゃんから質問を続けられると、いつか暴露しなくちゃいけなくなっちゃう。

わたしは覚悟を決めた。

「そうよ、そのどちらかよ」

一瞬。
呆気にとられたように、お兄ちゃんが唇を閉じるのが目の端に映ったけれど、もうどうでもいいわ。

「来月のバレンタインデーにチョコレートあげるんだからっ」
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