だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
「ほ~ら都ちゃん、乗って乗って」

わたしの視線にはまるで気づかないふりをして、軽やかな口調でそう言うと、わざわざパパが車のドアを開けてくれた。

「都さん、受験お疲れ様でした」

静かな声でそう言われただけなのに、わたしの鼓動は一気に早くなる。
普通に喋らなきゃ。

でも、わたし、清水と今までどうやって喋ってたっけ?
必死に頭を絞らないと、変な丁寧語が口からうっかり出てきそうで怖い。

「ううん、これも勉強を見てくれた清水のお陰だわ、ありがとう」

「違う違う、これは都ちゃんが頑張ったからだよ~」

パパが酔ったふりでわたしの肩に手を回してきた。
せっかく広い車の右端に身体を寄せていたのに!
なんでこんな近くに寄って来るかな?
絶対あれだ。会社に入ったらOLに嫌われるセクハラ上司ってヤツになるに違いないわ。
この前テレビでやってたもん、間違いないっ。

「ぱぁぱ、重いっ」

やんわりと、パパを押し返す。

「それで、さっきの話清水に聞いた?」

さりげない口調でさっきの話をわざわざここで蒸し返してくるなんてっ!
我が親ながら最低だわ。

本当のわたしの気持ちを知っているにしても知らないにしても。
最低!

わたしはパパの耳を引っ張って囁く。

「家に着くまでに一言でも喋ったら、もう、パパのキスは受け取らないんだからっ!」

パパはふわりと笑う。

「それは困るな、とっても」

そしてわたしの髪を撫でた。

「家に帰るまで少し眠るといい。疲れただろう?」

はい、良く出来ました。
これで、パパが喋らなくても清水も不思議に思わないってもんよ。

わたしはすっかり勝利した気で居たの。

今のわたしの言動こそが本当の気持ちをパパに教えたようなもんだなんて、気づくこともなく。
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