だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
でも、もう私の勇気は搾りつくして空っぽだから。
これ以上、なんていったらいいのか見当もつかないよ。

「大丈夫ですか?」

黙って胸に顔を埋めていたわたしに、気遣う声が降ってきた。

わたしは勇気の代わりに元気を集めて、顔をあげて笑って見せた。

「うん、大丈夫。
ありがとう、清水……さんっ」

うっかり忘れていた敬称を付け加える。

「構わないのに、呼び捨てで」

そっと清水の手が背中から外れる。
それだけで酷く淋しいけれど、諦めてわたしはいつものわたしを思い出す。

「だぁって谷田陸が変って言うんだもんっ」

「もう谷田陸に私が会うことなんてないでしょうから、お気になさらなくて結構ですよ」

緩やかに笑う清水の顔が好き。

どうやって言ったら伝わるのかな?
この、心臓がぎゅってなる感じ、なんて名前をつけたらいいの?

「ちゃんと着替えて眠ってくださいね」

「うん。
遅くまで引き止めてごめんなさい。
おやすみ、清水……さん」

どうも敬称を忘れてしまうわたしに、清水はやっぱり優しい笑顔を返してくれた。

「おやすみなさい、都さん」

まるでそれが一つの作法でもあるかのように、丁寧に頭を下げゆっくりと部屋を出て行く彼の広い背中から目が離せない。

わたしはいつもどおりに笑っていたのかしら?
ドアが閉まった瞬間、溢れてきた涙を拭いながらそんなことが頭を過ぎっていった。
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