だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
22.ただ逢いたくて
「谷田、八色。
後で職員室に来てくれ」

相変わらずクラス中の女子の目をハートマークにしながら教壇に立つ東野先生が、一日の最後のホームルーム、通称「終わりの会」で最後にそう言った。

くすりと後ろの席で音葉が笑ったような気もしたけれど、気のせいだと思うことにした。
本当、恋する女の子って怖いわぁ。

わたしはランドセルに荷物を詰め込んでそれを持ってから、谷田陸と一緒に職員室に向かう。

「インフルエンザ、大丈夫?」

よく考えたら、今日谷田と喋るのはこれが初めてだった。

「うん、ありがとう」

そっか、良かったなと谷田が笑う。
そういえば、わたし、谷田陸のことが好きなんだったっけ、と余計なことを思い出してしまう。

好きな人だと思ってみれば、それなりに素敵に見えてくるから不思議だと思う。

空腹が一番の調味料って聞いたことあるけれど、好きという感情も一番の色眼鏡なのかもしれないわね。

「今朝、あいつら見たんだ」

不意に、谷田が声を潜めてそう言った。

「どこで?」

あいつら、と言えばあの時服を買ってあげたあの二人のちびっこに違いない。
どくん、と。心臓が派手に動き出す。

わたしも引きずられるように声を潜める。

「この近くだよ。
登校中だから追っかけるわけにはいかなかったんだけどさ」

手のひらが汗ばんできて、直後、今朝お邸で耳にたこが出来るほど聞かされたはずの警告が、頭の中から綺麗に消えていく。

「じゃ、放課後探してみよう」

と、躊躇うことも無く谷田陸を誘っていた。
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