だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
「三ヶ月で卒業式だなんて、なんだか淋しいよね」

「そうですか?」

先生の言葉にわたしはにこやかに答えながら、頼まれた書類をテーブルに置いた。

「そうだよ。先生なんてまだ、きたばかりなのに」

――かちゃり

その瞬間何故か、鍵のかかる音が聞こえた気がして驚いて振り向いた。



「へぇ、八色って耳がいいんだねぇ」

ぞくり、と背中が粟立つ。
東野先生の声のトーンが、唐突に低くなったのだ。
まるで、別人みたいに。

「え?」

わたしは何にも気づかない子供のふりで、首を傾げる。

「いや、先生の気のせいかな」

先生はふわりと、いつもの笑みを浮かべわたしたちの方へと歩いてきた。
谷田とわたしの肩にそれぞれ手を置く。

それから、再びぞくりとする低い声で言った。

「実は、二人に逢いたいと言っている人が居るんだが……。
時間、作れるよな?」

「わたしたち、に?」

次に、再びふわりと笑う。
どちらが本物か分からないくらいに、自然な笑みだ。

「そうなんだ。
服とハンバーガーのお礼がしたいって」

「……あの子達?」

わたしと谷田は探り合うように視線を絡ませた。


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