だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
夕食が終わった後、パパが物言いたげな顔でわたしを見ていた。
あ、お兄ちゃんがすれ違うたびに物いいたげな顔でわたしを見ているのはとっくに気づいてるわよ?

いいのいいの、嫌いな人と、わざわざ立ち止まって会話を交わしたりしないでしょう?
普通。

「都ちゃん、パパのお部屋に来てくれる?」

滅多にお邸には寄らないのに、パパの部屋っていうのが存在していることがなんか腹が立つけど、まぁ、仕方がない。

わたしの警戒心丸出しな視線に気づいたのだろう。

「もちろん、あったかいココアを用意させるよ。
それから、まだ、渡していないお年玉も、ね?」

う~~~。
これだから、大人ってのはズルいんだから。

わたしの弱点を良く知ってるし、それを巧みに利用もする。

じぃと上目遣いで見つめるわたしに、パパはにこりと笑ってみせる。
この笑顔に落ちない女は居ない――なんて物騒なことが仲間内から囁かれる通称『キラースマイル』で。

も、もちろん実子のわたしがそんなのにたぶらかされるはずはない。

ないんだけど。

「明日から学校だったよね?
パパが新しい筆箱買ってきてあげたよ。
もちろん、都ちゃんが大好きなあの犬のキャラクターの。お部屋にきたらそれもあげる」

……こ、これだから大人ってヤツは!!

なんてことを思う前に、わたしは。
よく調教された犬が飼い主の元に歩み寄るがごとく、パパの手を握っていた。

万が一、わたしに尻尾があるとすればはちきれんほどに振っていたに違いないわ!
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