だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
ベッドに置こうとした途端、ぎゅうと首に抱きつかれた。

「都さん?」

どきりとした。

「ちょっとだけ、こうしていて。
ね?」

その声は、涙を堪えているかのように不自然に震えている。

「いいですよ」

優しい声とは裏腹に、心の中では彼女が泣けば良いのにと願っている自分に気づく。
ここで、初めて芽生えたのであろう恋愛という気持ちに起こる一連の起承転結を覚えて、泣いてくれれば良いと思った。

「ねぇ、お兄ちゃんは誰が好き?」

「それはもちろん、都さんですよ」

小さな声に、真剣に応えたのに不服そうに唇を尖らせている。

「本当の話よ?
その好きじゃなくって、別の好き。
ほら、お兄ちゃん彼女居たじゃない?」

居たっけ。
それって、都さんの気持ちを逸らさなきゃって精神的に追い詰められた頃、これ見よがしに連れて来てみたどっかの女のこと?

名前だってもう、忘れてしまった一夜限りの誰かのこと?

「居ませんよ」

「嘘つきー。
それに、わたしのことは嫌いでしょう?」

……また、これだ。

俺は都さんの髪を整えて、そっとベッドに下ろす。
不安がらないようにその頬に手を添えたまま言った。
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