だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
体温が急速に冷えていく。

「教室に行ってみたら?
ねぇ、そんでまた教室飛び出して、もう二度と帰ってこないでよっ」

音葉ちゃんが、鋭い声をあげた。
涙に濡れて真っ赤な瞳は、人ではなく鬼の姿を髣髴とさせる。

わたしは、考えるまでもなく走っていた。
教室に。

黒板に書かれていた文字なんて、もう、覚えるのもいやなくらいだ。

わたしが谷田陸を好きなこと。
青山くんが、わたしのことを好きなこと。

「ねぇ、八色さん。
気にすること無いよ。
今日、音葉ちゃん、青山君に告白して振られたからって八つ当たりしているだけだって」

誰かが、そんな風に言っていたけれど、もう、何もかもどうでも良かった。

気にするわよ。
友達は大事にしろって、パパも言ってたから。

ねぇ、いつかの相合傘のことは忘れたふりをしてあげていたのに。

何、この仕打ち――。

青山くんの気持ちなんて、わたしが知るわけ無いじゃないっ。

ランドセルに荷物を詰めるのも面倒だったから。
チョコレートが二つしか入っていないランドセルを手に、教室を飛び出す。

今日、持ってきたはずのお気に入りの傘が、骨とビニールの残骸にされていた。
バカみたい。
器物破損で訴えられればいいんだわ。


わたし、絶対に、泣かないんだから。

考えるより前に、靴を履き替えて学校を飛び出していた。
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