だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
清水には車だって、傘だってあるはず。

それなのに。
同じように傘も差さずに走ってきてくれたなんて。

ねぇ。
どうして?

清水はすっかり濡れたわたしの髪を掻き揚げた。
それから、水滴がたくさんついた眼鏡越しに、笑ってみせた。

「好きだからに決まっているじゃないですか」

もう、その好きが、どういう好きでも構わなかった。


「瞳、閉じてもらっても?」

耳に心地良い低い声に、こくりと頷く。
すっと、彼が眼鏡を外したのを感じた。

直後。
わたしの頬に、そっと。
清水の頬が触れる。

すっかり冷たくなっていたけれど。

そして。
それは、キスなんかじゃないって分かっているのに。



そのときのわたしに、その行為は。
愛を込めた特別なキスを唇に落とされたのと同じくらいの、感動と衝撃と甘い想いを教えてくれたのだ。

他の誰にも抱けない、ある人にだけの特別な想いを「好き」と名づけるなら。
間違いなくこの時、わたしと清水の間には特別な「好き」が漂っているのだと。


朦朧としはじめた意識の中で、わたしは強くそう想った。
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