だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
高級車が乱暴に横付けされた。

赤城が慌てて傘を持って走ってくるのが見える。
パパが大きなバスタオルでわたしを包んでくれた。
水に濡れた犬を洗うように、粗雑に拭く。

あっという間に車はお邸について、わたしは、熱い湯船に身を沈めて、ついでに今日のショックを洗い流し、甘い感動だけを噛み締めていた。

髪を乾かしていると、お兄ちゃんがやってきた。
制服のまま、息を切らしている。

「都さん、大丈夫ですか?」

「……うん」

多分、息を弾ませているお兄ちゃんよりはずっと。

「傘。前の気に入っていたから、ほら。
たくさん買ってきてあげました」

そう。
今日ダメにされたわたしのお気に入りの傘は、一年前、お兄ちゃんからホワイトデーのお返しにって買ってもらったものだったの。

ピンクをベースに白の水玉模様が可愛らしい、それでいて大人っぽい雰囲気を併せ持つ素敵な傘。

……が、十本。

「お兄ちゃん?」

いくらなんでも、それは買いすぎでは?
1本1万円だとしても、それだけで10万円……。

「だから、心配しないで。
傘なら幾らでも買ってあげるから」

「でも、また。
誰かが壊すかもしれないじゃないっ」
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