だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
「初めまして。私、八色都さんの婚約者です」

お兄ちゃんは真顔で言った。

……はい?
  ねぇ、嘘の恋人っていうのは、嘘の婚約者と同義語なわけ?

混乱するわたしの心の声なんて歯牙にもかけない様子で、お兄ちゃんはわたしの肩に手を回す。
その仕草が自然すぎて怖いんですけどっ!

「こ……んやくしゃ?」

「ええ。
ご存じないもの無理の無いことです。
両家の親が勝手に決めたことですから。
それでも、決まっているものは仕方が無いでしょう?
ですから、どこかの誰かが彼女のことを好きだと言ってくれても、応えようがないのです。
それだけ、お伝えしておこうと思い伺いました」

「……は、ぁ」

子供相手には不自然なほどの丁寧すぎる言葉遣いと、有無を言わさぬ圧迫感に音葉ちゃんは目を白黒させていた。

「そういうことですから、是非とも卒業の日まで彼女と仲良くしてあげていただけませんか?
謂れのないことで傷ついている彼女を見るのは、私には耐え難いのです」

だ、誰ですか、あなたっ!!

わたしは突っ込みたくなるのを必死に堪えて、ほとんど置物のようにそこでじっとしているほかない。

朝話していたのはこのことだったのね!
ああ、もっと早く気づいていれば。

で、でも。
気づいたところで、何か対処方法なんて思いついたかしら?

……きっと無理だわ。
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