だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
「八色都に限って危ないことなんてないって」

谷田陸が、不躾に人をフルネームで呼びつけにかっと笑う。
なんだろう、面倒だなぁ。

クラス委員なんていう面倒なものを押し付けられているわたしがボールを投げ返すわけもなく、そのまま教室後ろのボール欄にそれを置く。

「だって、八色の運動神経ってピカイチだもん」

谷田は懐いた犬の如くわたしの傍に来て、楽しそうにそう言った。

平和でいいわね。

そういってあげたい気分に襲われる。
でも。

それはわたしの周りが平和じゃないと公言するようなもんだから、とてもそんな風にいえるはずもない。

「えー、そうかなぁ~。
わたし、結構鈍いって言われるよ?」

小学生がどんなトーンで喋るのか、わたしはよく心得ていた。
周りと違うことをすると、大変な目にあうのだ。

物心ついたときからずっと、集団生活の中にいたわたしは周りの雰囲気を読んで、カメレオン並みに同化するのが得意なのです。

ま、それでもさっきみたいにぼーっと窓の外を眺めているときは、わたしの周りから小学生オーラは消えているみたいなんだけど、ね。

だいたい、子供って無駄にテンション高すぎるって思わない?
これ装うの、かなり大変なのよ。

たまの休憩くらい広い心で見逃して欲しいものだわ。
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