だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
「何か、困ったことはありませんでしたか?」

それは、小さな子供に語りかけるように優しく、そして。
恋人にでも語り掛けるように、甘い口調。

「うん」

どぎまぎしすぎて、そっけなく頷くことしかできない自分がもどかしい。

「学校に、居るの?」

「そういう噂があるんです。
今日、誰か転校生はやってきませんでしたか?」

「ううん。少なくともうちのクラスには居なかったわ」

「そうですか」

「ねぇ、学校危ないの?」

「いいえ。
いくらなんでも、そんなに目立った動きはしないでしょう。
都さんがうちのものだと知っているとは思えませんし」

そういうと、切なさと愛しさを溶かして作った蜜蝋を思わせる瞳でわたしを見つめ、堪え難い衝動に突き動かされたように、ぎゅうとわたしを抱きしめた。

「ずっと傍に居れればいいんですが」

……も、もう。
  心配性なんだから!

わたしは心の中で呟くに止め、黙って身を任せていた。
けれども。
お兄ちゃんは一向にわたしから手を放すつもりがないらしい。

「も、もう大丈夫だから会議に戻って?」

「そうですね」

不承不承、という感じで応えると不意打ちのキスを頬に落として、ぽんとわたしの頭を撫でるように叩いてから会議に戻っていった。

どぎまぎしすぎて、身動きの取れないわたしに、溶けそうなほど甘い眼差しを注ぎながら。
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