だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
「ひゅうひゅう」

ふと。
小学校の教室に戻ってきたような錯覚を感じて、冷やかしの口笛が吹いたほうを見る。

「よっ」

と。左手をあげて見せるのは、わたしのパパ、紫馬 宗太。
実の父親でもなければ、縁を切りたいようなふざけたイケメン。

今日は相変わらずサイケな緑色のスーツ。……スパンコール付?
でも、それをサイケと感じさせないほど、美しく着こなしているところがなんていうか、怖ろしい。

「あのねぇ。
いまどき小学生だってそんなベタな冷やかし方しないわよ?」

呆れ顔のわたしの目の前で、ちっちっち、と。
得意げな顔で、人差し指を揺らしてみせる。

どうしてこうもいちいちベタな仕草を、素敵に演じて見せるのかしら?
見慣れているはずなのに、何度だってわたしは、その演技力に敬服してしまう。

「小学生(こども)だからしないんだよ。
大人になったらね、ベタこそが斬新。
例えて言うなら、そうだな。遠足の前にてるてるぼうずを掲げるじゃない?
同じくらい真剣に祈ったりするんだよ、今日の仕事がうまくいくようにってね。
お分かり?」

「いいえっ」

だいたいそれって、例え話になってます?

「うーん。
おこちゃまには、まだまだ難しいかな?
そうだなぁ。じゃあ、ベッドで乱れる美女との戯れに例えると……」

「紫馬の頭、そろそろ会議に入られたほうがいいんじゃないですか?」

穏やかな声がパパの会話を遮った。
目をやると、落ち着いたブラウンのスーツに着替えた清水が若干呆れた視線をパパに投げていた。


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