だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
谷田陸が、くるりときびすを返す。

どうしたのかしら?
泣いているわたしに幻滅した、とか?

いやいや、幻滅するほどの幻をわたしに見ているはずもないわよね。

ほぉんっと。
どうしたら、涙って止まるんだろう。

よぉーく考えたら、わたし、本当に泣いたことなんてないわ。
いや、そりゃ多分、赤ちゃんの頃は泣いてたと思うし。
絶対に泣いたことがないなんて、言い切れるわけじゃないけど。

少なくとも、小学校のクラスメイトの前でなんて泣くような事態に追い込まれたためしがない。

ほら、お兄ちゃんやパパが居れば、いつだって抱きしめて、あやして、守ってくれるじゃない?

……そこまで考えて、つくづく。
  わたしもガキじゃんって実感した。

大人びた気持ちでいても、所詮。
大人が守ってくれているって信じてる、ただのおこちゃまだ。

「ほら」

谷田陸が、わたしに差し出してくれたのは自販機から買ってきたと思われるココアだった。

「ありがと」

受け取ったそれは、冷たくなった手には火の様に熱くて。
だけど、落としたくなかったわたしは、それをぎゅっと頬に押し当てる。

どこかでみた、ドラマの真似っこかもしれない。
でも。

すごくすごく、嬉しかった。
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