だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
谷田陸が思っている世界は、わたしが認識している世界よりきっとずっと単純な構造なのだろう。

困ったことがあれば、警察に頼る。
それで、万事解決。

本当に、そうだったらどんなに良いかとわたしも思う。
だけど、現実は違うのだ。

そんな人を、たくさん銀組のお邸で見かけた。

 ストーカー被害を受けて、警察に訴えたけれど何もしてくれない。しまいには被害妄想じゃないかと疑われる始末。それで、うちの組にボディーガードを頼みに来た女性。
 やっとの思いでDV夫から逃げ出したのに、警察に届けたばっかりにまた、DV夫に居場所がばれてしまったという女性。
 痴漢なんて絶対にしていないのに、警察に強引にでっち上げられ、仕事も家庭も失った男性。

……そんな人が、最後に頼るのが銀組(うち)なんだもん。

もちろん、99%は警察が頼りになるのかもしれない。
ほんの一部の人しか、そんな被害に逢う人なんていないのかもしれない。

だけど。
ほんの一部の人だって、それはちゃんと人格のある一人の人間、なんだよ?

そして。
そのほんの一部の人しか見てないわたしにとっては、もうそれが、世界の全てのように思えてしまうのだ。


こればかりは、人生経験の差としか説明のしようがない。
それに、谷田陸にそんな風には言いたくなかった。

少なくとも今だけでも、同じ場所に居たかったから。
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