だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
「失礼します」

部屋がノックされ、清水がさっき言われたものを全て持ってきてくれた。
わたしが顔をあげると、視線が絡む。

その瞳と口許だけで、どれほど心配していたか、今、どれほど安心しているかを告げるなんてずるいわ。
わたしは、胸が痛くなって視線を逸らしてしまう。
それでも、清水は丁寧に一礼してから部屋を出て行った。

――『大人に対して苗字呼び捨ては酷くない?』
  谷田陸の言葉が胸を過ぎる。
  次に逢ったら、「清水さん、ありがとう」って言おうと、心に決める。

「痛まないといいんですけど」

お兄ちゃんはわたしの手の甲を濡れタオルで拭いてくれた。
確かに、それだけで突き刺すような痛みが身体を走る。

でも。
唇をぎゅっと噛んでそれに耐えた。

しみない消毒と言ったって、傷が濡れたら痛い。
それでも、これ以上表情は崩したくなかったの……。

わたしの脳裏に、小さな二人の姿が幾度も幾度も甦る。
腫れた頬、あざの残る身体、手首にも足首にもあった擦れた痕。

それを思えば、この程度の傷で痛いなんていう資格なんてないように思えたの。
ガーゼの上に、防水タイプの包帯を巻いてくれた。

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