だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
お兄ちゃんが躊躇いがちに、そっとわたしの髪を撫でる。
清水が用意してくれたスープを、カップのまま飲む。

包帯が丁寧に巻かれた手は、いつもよりずっと使いづらい。
そのゆっくりな動作を見ていてくれたお兄ちゃんが、空になったカップを手に取りながら唇を開く。

「髪洗うの、手伝いましょうか?」

「ううん、大丈夫」

甘えず、ちゃんと自分でやらなきゃ。
わたしはきっぱり言って首を横に振るとぴょんと立ち上がる。

「……都さん」

柔らかい声なのに、呼び止められた瞬間、肩が震える。
わたしは部屋の入り口でゆっくり振り向いた。

お兄ちゃんは切なさを閉じ込めたような瞳で、緩やかに微笑んでいる。
握り締めた手のひらは何を閉じ込めているのかしら?

「ケータイ電話が、ハンバーガー店で見つかったそうですよ。
その後、走り回った理由を後で教えて頂けますか?」

そっか。
そうよね、GPS機能がついているケータイだもんね。

あれをあそこに置いておかなければ、きっともっと早く助けてもらえたんだわ。

わたしはこくりと頷くと踵を返す。
これ以上あそこに居たら泣いてしまう。
泣いて、抱きついてしまう。

折角頑張ったのに。
今、それをしたら、全てが水の泡になっちゃう気がしたの。

熱いシャワーで涙ごと流す。
耳の奥が、ツンと痛かった。
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